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「ほら、朝だよ」 育郎がベッドの中で丸くなっているルイズを揺さぶる。 「うにゅ~もうちょっとー」 「もう登校してる人達もいるようだし、早く起きないと」 「むー」 仕方なくベッドから離れるルイズ 「そこに洗面器がおいてあるから、顔を洗って。制服はそこ」 「下着…そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しー」 「これだね、授業に必要な物は?」 「鞄に入ってる…」 「着替えはおわったね、はい鞄」 「うん」 「じゃあ、いってらっしゃい」 「いってきます…」 寝ぼけ眼をこすって部屋から出るルイズを見送ってすぐ、 「ってなんか違うでしょおおおおおおおおおおお!!!」 叫びながら部屋に戻るルイズを見て、育郎は (忘れ物でもしたのかな?) 等と呑気に考えた。 「貴方は使い魔なの!使用人じゃないの!そりゃ…似たような事させるつもりだけど」 「なんかあんまりにもナチュラルだったから素直に従っちゃったじゃない!?」 「いい!使い魔は主と共にいるって言ったでしょ! 授業中も一緒にいなきゃいけないってわかんない!?」 「というかあんた、朝ごはんどうするつもりだったのよ!?」 等と道すがら怒鳴られながら食堂に向かう。 育郎は粗末な食事、スープとパンニ切れをもって食堂をうろついていた。 ふとルイズの方を見ると、豪勢な食事を美味しそうに頬張っている。 自分の食事との差に何か釈然としないものを感じないではないが、なにせ本来『使い魔』 とやらは動物(あくまでこの世界のだが)が出てくるらしいので、仕方ないのかもしれない。 とはいえ床に置かれたそれをそのまま食べる気にはなれないので、どこか座れる場所がないか 探している最中なのである。そうしていると、ふと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。 「こいつにハシバミ草のサラダを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!」 「これ、本当に食わなきゃ駄目かのう?」 オスマン氏が目の前のサラダを見ながら、ミス・ロングビルに一縷の望みを込めて聞く。 「駄目です」 にべもなく断られる。 「しかしのう…」 「駄目です」 「まだなんも言っとらんのじゃが…」 しかたなく三千世界にその苦さが知れ渡るとうたわれたハシバミ草を眼の前に持っていく。 「ばあさんや、飯はまだかのう…」 ボケたフリをしてみた。 「眼の前の物しかありません」 駄目だった。 (こんなに怒らんでもええと思うんじゃが…それにしてもいつにもまして苦そうじゃのう) 頑張って一口食べた。 「こ、これでいいじゃろ…ミス・ロングビル…」 「あらあら、まだこんなにも残っているじゃありませんか、オールド・オスマン」 「………マジ?」 「マジです」 救いを求め周りを見回すが、目があった教職員は『自業自得』という目をしている。 (薄情な連中じゃ…おや、あれは?) 見ると今朝会った少年がこちらを見ている。 「おお、少年!」 今朝会った老人に手招きされたので、先生らしき人達が集まっている場所に近づく。 「おじいさん…その、今日はすいませんでした…」 「ほっほっほっ、かまわんかまわん」 「悪いのはオールド・オスマンですから、イクロー君は気になさらないで」 「今朝あったばかりじゃのに、ずいぶんと親しそうじゃのう… こりゃミス・ロングビルがミセス・ロングビルになる日も近いのかな?」 「おほほ、オールド・オスマンったら…そんな事言ってもうやむやにはしませんからね」 チッ、っと舌打ちするオスマン氏が、ふと育郎が持っているものに気付く。 「おお、そりゃ君の朝飯かね?ずいぶんと寂しい限りじゃな…」 「ええ、まあ…」 「そうじゃ!それだけじゃ足らんじゃろ?このサラダを食べてみないかね?」 「いいんですか?」 「オールド・オスマン!駄目よイクロー君、それは…お尻を触るんじゃぁない!」 オラオラを叩き込まれながらも「は、早く食うんじゃ!」とオスマン氏がせかす。 せっかくの好意(?)なのでサラダを食べようとすると、誰かが育郎のズボンを引っ張った。 「君は?」 見るとルイズと同じ格好の、だがさらに背の小さい、青い髪をした少女が立っていた。 「交換」 そう言って鳥のローストが盛り付けられた皿を差し出してくる。 「…ひょっとしてこれと?」 サラダを指差してみると、こくんと小さく頷く。 「いいのかい?」 「………」 もう一度頷く。 ローストチキンを食べながら、育郎は 「この世界の貴族は、意外にいい人達が多いのかもしれない…」 なんていうことを考えていた。 それだけ オールド・オスマン 当初の予定の3倍のハシバミ草を食わされリタイヤ
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もしかしたら今私が体験していることは全て夢なんじゃないのだろうか? 目が覚めたら元の世界なんじゃないだろうか?実は人間になんてなってなくて幽霊のままなんじゃないだろうか?左腕は失ったままなんじゃないだろうか? デルフやルイズにシエスタ、この世界全体が私の見ている夢なんじゃないのだろうか? そんな馬鹿げたことを思いながら、眠気を払うように頭を振りかぶる。 「おはよう相棒。やっぱ起きるの早いのな」 「……ああ。そうだな」 その馬鹿げた考えをデルフの声を聞きながら打ち消した。この声が夢か?この体に伝わる感触が夢か?夢なワケがない。 ちょっと寝起きで頭がよく働かなかったみたいだ。 ん?そういえばなんでデルフが喋れるんだ?いつも鞘に収めてから眠っているはずなのに。 「お前、どうして鞘から出てるんだ?」 「あ?相棒が話してる途中で眠っちまったんじゃなねえか」 「え?」 そうだっただろうか? 昨日の夜のことを思い出してみる。スタンドの説明をし、キラークイーンの能力を話し、それから……それから? ダメだ。デルフを鞘にしまった覚えが無い。どうやらデルフの言う通り知らず知らずのうちに眠っていたようだな。 「そうだった。私はお前を鞘に収めずに寝たんだった」 「そうそう。本当は起こそうかと思ったけどよ?でも相棒熟睡してから起こすのもなんだと思って結局起こさなかったんだよ」 デルフ……。そこまで私のことを考えていてくれたのか。 「そうか。すまないな」 「……なんだ?今日は雨でも降んのか?そんな風には見えねえけど」 「どういう意味だ」 こいつ、人がせっかく素直に感情を吐露してみれば…… 「んなおっかねえ顔すんなよ。冗談じゃねえか冗談。相棒があんまりにも素直に俺にあやまるもんだからちと驚いちまっただけだって。 ほら、そんな素直になんか言うのはアルビオン以来だしよ。いや~、あんときはよかったな。相棒ピンチだったけど俺のこと相棒っていってくれ「だまれ!」」 自分でもまさしく神速といえるんじゃないかというほどの速さでデルフを鞘に収めた。 全く!そういったことは口に出すな!恥ずかしい。頭の中でリフレインしていろ。いや、デルフに頭はないか。 鞘に収めたデルフをベッドの横へ立てかける。その瞬間、 「いってぇえええええええええええええ!」 右手に激痛が走った。私の声に驚いたのか傍で眠っていた猫が跳ね起きる。 チクショウッ!なんだこの痛みは!? 驚いて右手を見てみる。右手には小指と薬指に包帯が巻かれていた。 「そうだったな」 右手に巻かれた包帯を見て思い出す。自分の見ての指が折れていることに。 そうだった。すっかり忘れていた。指が折れてたんだった。 おそらくデルフを置く際に、どこかに指をぶつけてしまったのだろう。チッ、忘れてなきゃこんな痛いしなくてもすんだのに。 あれ?おかしいぞ? 慌てて自分の左手を見る。もちろん武器なんて持っていない。だからルーンは発動してない当然だ。 だったらなぜ左手に痛みが無い?腹も痛くないぞ!昨日はあんなに痛かったのに。 幻痛だったからこんなにもあっさり痛みがなくなったのか?幻痛なんて言葉程度でしか知らないからな。 大体こんなもんだってのは想像つくがどんな風に治るかなんて全く知らなかったが、まさかこんな突然痛みが治まるなんて思いもしなかった。 しかしそれを悪いことだと思うか?思うわけが無い。むしろこれで自由に動けるから嬉しいくらいだ。 早速立ち上がり着ていた服を脱ぐと、机の上に置かれていた自分の服を手に取る。どうやらしっかり洗濯はしてあるようだ。誰がしたかは知らないけどな。 そう思いながら服を着、懐に銃を入れなおす。目に付くところに手袋と帽子がないから、多分それらはまだシエスタの家にあるのだろう。 ルイズめ、私の部屋に行ったんなら取ってきてくれてもよかったんじゃないか?気が利かない奴だ。 さて、ばあさんに普通の食事ができるようになったって伝えに行くか。私は患者だ。遠慮することはない。 それに年寄りは早起きだろうから、この時間帯ならもう起きてるだろう。 お昼の少し前ごろ、竜騎士隊がその名の通り竜に乗って颯爽と現われた。 村の住人たちも珍しがって集まってきている。野次馬共め、うっおとしい。 ガキもワーワー喚くな!だがそれにしても、 「竜に乗る姿が様になってるな」 「当然でしょ。だって竜騎士隊なんだもん」 答えになってねえよ。 それにしても、やっぱり竜というのは恐ろしいな。あんな巨体で空を飛んでその上火まで吹けるんだろ? 考えただけでも恐ろしい。普通の人間じゃ絶対太刀打ち出来ないな。だからこそメイジが乗るのだろう。 奴らは魔法が使えるからな。きっと魔法で竜に対抗できるに違いない。 竜をよく見てみる。騎士たちが乗っている竜はタバサの使い魔の竜とはまた違う竜だった。タバサの竜より体がでかい。 きっとのその分力強いのだろう。この世界じゃ私の知ってる物理法則なんてあてにならないからな。そういう風に考えておけば大体あってるはずだ。 竜騎士隊とルイズがなんらかのやり取り(おそらくゼロ戦を運ぶ手順だろう)をした後、竜騎士隊が早速動き出した。 と言ってもどこかへ行っただけだ。方向からして草原のほうか? 「ルイズ、彼らはどこへ行くんだ?」 「ゼロセンの場所に決まってるでしょ。運ぶ準備はあっちがしてくれるから私たちは帰る準備をしちゃいましょ」 「ふ~ん。そうか」 なるほど。結構働いてくれんだな。 そうして帰る準備(といっても私はデルフと猫だけだが)を終え、あとはシエスタの家で竜騎士隊を待つのみとなった。 「そういえばシエスタは帰る準備はしないの?ドラゴンに乗っていけば今日中に学院につけるわよ」 「いいえ、私は残ります。もうすぐ姫さまの結婚式ですから。休暇をもらうときそのまま休暇をとっていいと言われてるんです。 ですからお言葉に甘えて、久しぶりに家族と過ごそうと思ってるんです」 「そう、よかったわね。シエスタって家族といるとすごく幸せそうだから」 「はい。私の大事な家族ですから。家族を臆面も無く愛してるって言えるぐらいに」 「聞くんじゃなかったわ。そんこと言われたら聞いてるこっちが恥ずかしくなるもの」 家族、家族か。 私の両親というのはどんな人間だったのだろう?キラヨシカゲの記憶を見たときはそこまで見る時間も無かったし興味も無かった。 しかし、こうして家族がどうだこうだと聞いていると自分のはどうだったのだろうと気になってくる。 両親はどんなのだ?兄弟はいたのか?殺人癖のことは知っていたのか?知っていたのなら止めなかったのか? 私を愛していたのか?愛していなかったのか?どれもこれもいくら想像しても全く想像もつかない。 不意に外のドアが開き、シエスタの父が入ってくる。 「貴族様、竜騎士隊が『竜の羽衣』もってきましたよ」 「わかったわ。それじゃあ行きましょうヨシカゲ」 「ああ」 「あ、ヨシカゲさんちょっと待ってくれ」 突然シエスタの父に呼び止められる。一体なんだろうか? 彼は私に向かって何かを放り投げてくる。私はそれを反射的に手で取った。これは、 「ゴーグル?」 「ああ、それと『竜の羽衣』は唯一じいさんが残したもんだ。じいさんと同じところからきたあんたに使ってもらったほうがじいさんも喜ぶかもって思ったんだ」 「……そうか。じゃあありがたく使わしてもらおう」 「それと、貴族様にはこれを」 彼はルイズに近づくとなにかを手渡した。それはワインだった。 あれ?私のときは放り投げたよな?なんだこの違いは。貴族とその従者だが同じ客だろう? 「これはこの村で作ったワインです。いつも貴族様が飲んでいるワインには劣るかもしれませんがもらってください」 「……ありがとう。わたし、この村にきてほんとによかったって思ってるわ」 「そう言ってもらえるとこちらも本当に嬉しいです。またいつでもきてください」 「ええ、また来るわ。絶対に」 こういして私たちはシエスタの家族たちに別れを告げ、竜騎士隊と共に村をあとにした。
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キュルケはディオを籠絡し、ルイズの鼻をあかそうとする。 しかしキュルケは知らなかった。ディオがどんな男であるのかを… おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第八話 夜も更けて日も代わった頃、燭台を持ちながら寮の廊下を歩いてくる人影がある。 ディオはあの後上手く隙を見つけて厨房を離れようとしたのだが、既に出来上がってしまったマルトーに捕まってしまい、 結局何回も決闘の顛末を話させられる事となったのだ。昨晩ろくに寝ていなかった事もあり、今のディオはかなり不機嫌である。 部屋に送ろうというシエスタを(何故かパーティーの間中マルトーより絡んできた)適当に振り切り、 やっとあと一つ角を曲がれば部屋に着くところまで来た時、ディオは部屋の前に何か明かりが点くのを見た。 「まさか…ルイズか?いや、あいつはおれを待って起きているほど甲斐性のある奴じゃない。」 不審に思いながらも進んでゆくと、すぐにその明かりは竜の尻尾で燃えている炎のそれだとわかった。キュルケの使い魔、フレイムである。 フレイムの少し怯えたような視線を無視して部屋に入ろうとするディオは何かに後ろから引っ張られるのに気付いた。 振り返ると、フレイムが一心不乱にディオのシャツの袖をくわえ、引っ張っている姿が見えた。 「貴様ッ!そのベトベトなそのツバでおれのシャツを汚すなッ!」 と叫ぶとディオはフレイムを殴ろうとするが、軽率な行動でせっかくある程度の信用を得たのに、 また振り出しに戻すような愚はすまいと我慢する。 だがその間にもフレイムはディオを恐る恐る部屋に引っ張り込もうとするので、今度こそ軽く殴る。 先程の威嚇で怯えきってしまったフレイムは短く悲鳴を上げると、袖口を離す。と、 「人の使い魔をぽんぽん殴るのは感心しないわね…」 とキュルケがため息をつきながら姿を現した。下着一枚で。 「まあいいわ、フレイムを使おうとしたのは失敗ね…。じゃあ改めてディオ、私と少しお話ししてくれないかしら?」 「…明日にしてくれないかな、ミス・ツェルプストー。今ぼくは疲れていてね、早く寝たいんだ」 普通の少年ならあっという間に悩殺されてしまうような下着姿にも全く同じないディオだが、 キュルケは強引にシナリオを進める事にしたらしい。 「もう、キュルケでいいって言ったじゃない。そ・れ・に」 悩ましげな口調でしだれかかったキュルケはディオの腕を掴むと部屋の中に連れ込む。いつの間にかフレイムも後ろに回って押し続ける。 「夜更けに女の子が話があるって言ったら内容は一つだけよ…」 そうしてディオは無理矢理キュルケの部屋に連れ込まれてしまった。 「あなたはあたしをはしたない女と思うでしょうね」 扉を後ろ手に閉めながらキュルケは囁く。 明かりといえば窓から見える二つの月のそれと、幻想的に揺らめくフレイムの尻尾だけである。キュルケは続ける。 「思われてもしかたがないの。あたしの二つ名は『微熱』」 「……それで?」 「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼びだしてしたりしてしまうの。 わかってる。いけないことよ」 「……」 「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」 キュルケは潤んだ瞳から、圧縮した体液ならぬ男の原始の本能を呼び起こさずにはいられないような色気を発しながら、ディオを見つめる。 「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく突然ね。」 「…。」 一方、ディオはあからさまな嫌悪感を持ってキュルケを見ていた。 なんだこいつは。会って二日しか経っていないおれをを部屋に連れ込んでベッドに誘うなど色狂い以外のなにものでもないッ! そう、まるであのクズ野郎(ダリオ)の開いていた酒場で夜な夜な男を誘っていた売春婦どものようにッ! キュルケが口説き続けているのを聞いているふりをしながら上手く脱出する方法を考えていたディオがふと窓に目を向けると、 探していたものを見つけたという笑みを浮かべて話し掛ける。 「ディオ。あなたがあまりにも気になるものだから、フレイムを使って様子を探らせたり……。 ほんとに、あたしってば、みっともない女だわ。そう思うでしょう?でも、全部あなたのせいなのよ。」 「なるほど、言いたい事はよくわかったよ。」 「本当?」 「ああ。キュルケ、君が嘘を付くのがだと言う事がな。」 突然のディオの言葉にあっけに取られるキュルケ。とっさに言い返そうとするが、 その前に窓を激しく叩く音に注意を逸らされてしまう。それは 「キュルケ…待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば…話が違うじゃないか!」 「キュルケ!その男は誰だ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」 「キュルケ!そいつは誰なんだ!恋人はいないって言ってたじゃないか!」 「キュルケ!お前って奴は…このビチクソがァーーッ!」 「キュルケーッ!何をしているだァーッ!ゆるさんッ!」 「キュルケ!」 「キュルケ!」 「ペリッソン!スティックス!マニカン!エイジャの赤石…じゃなかったエイジャックス!ギムリ!…ええと、あと沢山!」 そこにはキュルケの恋人達が窓という窓を叩き、口々に絶叫しているおぞましい光景があった。 それらを次々と炎で叩き落として一息つき、ふと振り返ると、ディオはいつの間にか消えていた。 「…フン」 ディオはキュルケが恋人を撃ち落としている隙に廊下に出た。実に胸糞の悪くなるような出来事だった。 売女風情がこのディオを口説こうなど無駄なことよッ! と、ここで思考が切り替わる。ルイズの部屋に行ったところであいつはまた床に寝かせようとするだろう。今夜はどうするべきか…。 悩んでいるとドアからルイズが飛び出して思いっきりディオと衝突した。 「…どうしたんだい、ルイズ」 「どうしたもこうしたもないでしょ!何よあれ!」 ディオが部屋を除くと、部屋は薔薇の強烈な香りが匂ってくるベッドに占領されていた。 「夕食から帰ったらいきなりギーシュ達がこれ運び込んでったのよ!臭くって寝れたもんじゃないわ! それにさっきからキュルケの部屋であんたの声が聞こえてたけど、あんたもしかして ツェルプストーと変な事でもしてたんじゃないでしょうね!納得がいくまで説明してもらうわよ!」 その後、ルイズに延々とヴァリエールとツェルプストーの因縁について語られたディオがなんとか眠りについたのは 結局何十分も経ってからであった。 「はぁ…」 キュルケは窓にしがみついていた全員を下に落とすとベッドに突っ伏した。隣からは延々とルイズの声が聞こえてくる。 大方ツェルプストーとヴァリエールの因縁についてでも語っているのだろう。 「まさかあたしが失敗するなんてね…」 今まで狙ってきた男を全員落としてきたキュルケには今回の失敗はかなりショックであった。 だがキュルケは気を取り直す。今回はハプニングがあったせいで失敗したのだ。幸い明日は虚無の曜日、この一日を使ってディオを篭絡し、 今度こそルイズをぎゃふんと言わせるのだ。 それに 「ディオ、あなたにも興味がわいてきたわ…」 ここまで自分を邪険に扱うディオにキュルケは逆に今までの男にない魅力を感じ、情熱を燃やすのであった。 to be continued…
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広場に着くと多くの生徒で溢れかえっていた。噂を聞きつけたのだろう。 周りが本当に五月蠅いものだ。 「さてと、では始めるか」 ギーシュが薔薇の花を振ると花びらが一枚宙を舞う。それが甲冑を身に着けた女の形をした人形になる。あれがワルキューレなのだろう。 ギーシュを守るように立ちふさがる。しかしわかってはいたが驚くものがあるな。花びらが変わるなんて非常識すぎる。 しかしルイズの話しでは複数体出せるはずなのだが。一体ということは幾ら怒っていてもこちらを平民だと嘗めているのだろう。 そのほうがありがたいがね。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 そんなもの想定済みだ。 「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 それぐらいもう知っている。 ワルキューレがこちらに向かって突進してくる。それを間一髪で避ける。 予想より早いが修正の範囲内だ。殴りかかってくるがまた避ける。避ける。避ける。避ける。 それを何回か繰り返す。 「なんだよ。避けるばかりかい?」 ギーシュが呆れたように言ってくる。 ワルキューレの拳が顔に当たりそうになる。それを右腕で庇う。衝撃で地面を転がる。 右腕を押さえる。 「腕でも折れたかな?」 ギーシュがあざ笑う。気にしない。 「ギーシュ!」 ルイズの声がするが気にしない。 ワルキューレが近づいてくるが気にしない。 この位置だ。この位置が凄く良い!私とギーシュの間に何も無いこの位置が凄く良い! 距離なんて関係ない。懐から銃を取り出し撃つ。 「うわああああああああああ!」 ギーシュが悲鳴を上げる。当然か。手を撃ち抜かれたんだから。 「痛い痛い痛い痛い!」 悲鳴を上げながら泣き叫ぶ。立ち上がり顔を蹴り飛ばす。今度はギーシュが地面に転がる。 撃ち抜いた手を踏みつけ杖を手にとりへし折る。今度は顔を思いっきり踏みつける。どうやら気絶したみたいだ。 袖から木の板を取り出す。来る前に厨房から失敬したまな板を切って入れておいた。これでガードすればダメージは抑えられる。 避けていたのだってワルキューレをギーシュの目の前からどかせるためだ。転がったのは一気に距離を稼ぐため。右腕を押さえたのは油断させるための演技だ。ギーシュは銃を安全に、そして確実に当てるための策にまんまと引っかかったのだ。 「私の勝ちだな」 周りが騒いでいる。どうやら私が勝ったのを驚いているようだ。 しかし拍子抜けだな。もっと苦戦するかと思って他にも用意はあったんだがね。 魔法使いと言っても油断していればこの程度か。ギーシュが『ドット』だったというのもあるが。 服から全ての木を取り出す。動きにくくていけない。 このナイフも厨房に返さないといけないな。 しかしさっきの感覚は何だ?銃を持った瞬間あんなに早く動いてあんな短い間に狙いを付けられるなんて。そういえば使い魔のルーンが光っていたような気がするな。今度確かめてみよう。 とりあえず今は静かな場所に行きたいな。 9へ
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思い出すのは、あの懐かしい日々。 大した苦労も無ければ、悩みも大したことは無かった。 あの日、トリステイン魔法学園は上を下への馬鹿騒ぎだった。 神聖なる使い魔召喚の儀式、そこで予想だにしなかった事態が生じたのだ。 まずヴァリエール公爵家が三女、ルイズが女を召喚し、次に道楽者のマリコルヌが男(後に女と分かる)を召喚した。 続いて香水のモンモランシーが女を召喚すると、最後にタバサ、後のガリア女王シャルロット・オルレアンは帽子の大男を召喚した。 これまでに例の無い異常事態に、誰もがなす術を持たなかった。 全てはルイズから始まった。 その場にいた全ての人間が、後にそう言った。 それどころか、トリステインの公式文書にまでそう記されている。 彼女がそれに関して何を思ったかは定かでない。 後世、竜に例えられたほどの烈女もこの時16歳。 余りの出来事に、ただ呆然としていた。 トリステイン史に残る大事件からふた月余り。 学園多少は落ち着きを取り戻していた。 雪風タバサは、今日も本を読んでいた。 傍らには奇妙な格好をした男が一人、同じように本を読んでいる。 男の名は空条承太郎。 タバサは自分が召喚したこの男を、どう評価すれば良いか迷っていた。 見えない力を操る奇妙な使い魔。 人の話を聞いた上で自分の思ったようにする。 確かにフーケの一件では目覚しい働きを見せた。 しかし、あの「ギトーオラオラ事件」と「学園長オラオラ事件」。 あの時は耳を疑ったものだ。 どうもオスマンは徐倫に何かしでかしたらしいが。 しかし、学園長はともかく、ギトーの件は何があったのだろう。 まあ、こうやって本を読ませておけば暴れることも減るだろう。 タバサはそう考える。 それに、多少扱い辛くともそう問題はない。 彼のスタンドとやらは、極めて強力だった。 自分は遠くから、彼は近くから。 必要に応じて間合いを選ぶことも出来る。 仕掛けるタイミングさえ間違わなければ、負けることはあるまい。 己の目的も、存外早く果せるかもしれない。 復讐の予感に胸が躍る。 それに、と学友へ目をやった。 あれよりはマシだ。 ナルシソ・アナスイ。 承太郎も他人の言うことに従わない方だが、アナスイはそもそも話を聞いているのかどうか。 おまけに加減というものを知らない。 あの「ワルド分解事件」を思い起こせば―――― と、そこまででタバサは考えるのをやめた。 今はただ、子爵の冥福を祈りたい。 昼食の後の気だるい時間。 キュルケはタバサと承太郎を眺めながら欠伸を漏らしていた。 (親子みたいよねえ) などと考えている。 (わたしとだーりんがいっしょになったら・・・・・・たばさがむすめで・・・・・・じょりーんが・・・・・・もう、だめ、ねむい) 商魂逞しいゲルマニアっ娘のキュルケは、このところ承太郎からいくつもの商売のアイデアを得ていた。 もっとも、それに打ち込み過ぎたせいで睡眠時間は削られる一方。 授業でも常に居眠りしている始末だ。 「はふ、タバサぁ、わたしへやでねてるわぁ。代へんよろしくねぇ」 タバサへ一声掛けて、立ち上がった。 承太郎へ声を掛けるのも忘れない。 「だぁりん、またおはなし、きかせてねぇ~」 ふらつきながら食堂を出て行く。 それをタバサと承太郎が呆れたように見遣った。 「きゅる、きゅる」 食堂を出たキュルケに、使い魔が嬉しそうに近寄った。 サラマンダー。 尾の炎が示す通り、火竜山脈の生まれである。 真に誇るべき、堂々たる使い魔といえよう。 だが、 「なあんか、わたしだけハズレを引いたような・・・・・・」 「きゅる・・・・・・」 「うそよ、うそ」 笑み崩れたキュルケは、使い魔ですら引きつけられるほどに美しい。 悪戯っぽく、子供じみて、しかしこの上なく優しい。 酔っ払ったように歩く主人の後を、フレイムはゆっくり追いかけた。 「アナスイ。・・・ちょっと、アナスイ!」 タバサの同情を受けたモンモランシーは今日もべそをかいていた。 この二月、彼女の使い魔は主をそっちのけでルイズ・ヴァリエールの使い魔にひっついていた。 最初は怒った、それはもう怒った。 しかし、次第に不安になり少し前まではすっかり落ち込んでいた。 無視されているというよりは目に入っていない。 まるで空気のように扱われていた。 それがとても悲しいことなのだということを、モンモランシーは初めて知った。 「ちょっと、アナスイ。 呼んでるわよ」 「ゼロのルイズ」の使い魔がこう言うことで初めて振り向いて貰えるのだ。 自分は一体何なのか。 「ああ、分かってる。 分かってるよ、徐倫」 今日はいつもより一層酷かった。 口ばかりで、顔面は使い魔、徐倫のほうを向いて動かない。 涙が零れそうになってしまう。 「ヘイ、アナスイ! お前いいかげんにしろよ。 この子泣いてんじゃねーか」 「エルメェスぅ・・・・・・」 マリコルヌの使い魔、エルメェスに助け舟を出されるのにも慣れた。 エルメェスは強い。 強いから、優しい。 モンモランシーは涙を拭いた。 彼女が女性だと知ったときは驚いたものだが。 もしも時代が違ったなら、一城一勢の頭領になっていたかもしれない。 そのくらいの器はありそうだった。 「なに騒いでんのよ。煩くてしょうがないわ」 それまでケーキに夢中だったルイズが言った。 視線は承太郎の皿に釘付けになっている。 どうするべきか、はっきりと言うべきか? いやいやそれはない。 食い意地が張っていると見られるのは・・・・・・それは構わない。 しかし、これ以上食べると後で後悔することになるかもしれない。 「ところでさ、父さん。それ、食べないの?」 しまった! この果断さが徐倫の強さだ、ルイズは歯噛みする。 自分は一歩及ばなかった。 承太郎は答えない。 何も言わず、ケーキの皿を滑らせた。 それを自分の前に引き寄せた徐倫は、幸せそうな顔で言った。 「ルイズ、半分食べない?」 「徐倫、愛してるわ」 答えるルイズ。 すでにフォークを構えていた。 「わたしもよ、ルイズ」 笑いを含んだ声は、しかし強烈な反応を呼んだ。 「な、そんな、徐倫!?」 アナスイがうろたえて言った。 こいつ、マジで焦ってやがる。 そう胸の内で毒づきながら、モンモランシーが突然声を上げた。 「そんな、ルイズ。わたしとのことは遊びだったの」 またやってやがる。 エルメェスは欠伸を噛み殺していた。 何が楽しいんだかな、と思っている。 このところ、モンモランシーは随分と打たれ強くなった。 何があっても、楽しみを見つければ一瞬で立ち直る。 「馬鹿ね、そんなはずないでしょ。わたしには貴女だけ・・・・・・」 脳が茹っているような会話。 それを聞きつけて、それまで友人と談笑していたギーシュが割って入った。 「おお、モンモランシー! 女の子同士だなんて、一体君はどうしてしまったんだい!?」 なんと言うべきか、実に芝居臭い。 それに比べて、モンモランシーの演技は巧みだった。 「・・・・・・ごめんなさい、ギーシュ。わたし、わたし、もう・・・・・・」 顔を伏せ、涙すら流してみせる。 この三人は最近、このような小芝居に凝っていた。 ルイズ達だけではない。 学園のそこかしこで、同じような光景が見られた。 三人の所為で。 いや、元を辿れば徐倫に行き着くのかもしれない。 ワルドの裏切り。 ウェールズの死。 落ち込んでいたルイズ達を励まそうと、徐倫ががんばったのが良くなかった。 今では徐倫をそっちのけで、遊んでいることが多い。 なにしろアナスイがこれに必ず引っかかるものだから、日頃の鬱憤が晴れるらしい。 ギーシュもはじめは引っかかっていたのだが、このところはモンモランシーと共に楽しんでいた。 禁断設定の背徳感が良いのだとか。 その一方で、アナスイは不貞腐れていた。 徐倫の膝に顔を埋めながら、慰められている。 ところでこのアナスイ、どうにも迂闊なところがあって、今も徐倫が笑いを噛み殺しているのに気付かない。 承太郎が不愉快そうにしていることに、気付いたものはいなかった。 彼はキュルケとのことを、娘にちくちくとつつかれているのだ。 自分に矛先が向かないよう、気配を殺していた。 さて、ルイズ達が遊んでいるころ、学園の教師達が一堂に会していた。 「ああ、それでは会議を始めるとするかの」 議長を務めるオールド・オスマンが低い声で告げた。 皆うんざりしているのが顔に表れていた。 オスマンも同じ気持だった。 議題は学園の風紀の紊乱について。 生徒達、特に女子生徒が同性間での恋愛に耽っているということだが。 本来ならば一笑してそれっきり、といった議題ではある。 複数の貴族の働きかけがなければ、こんなことにもならなかったろう。 事情はこうだった。 とある生徒、これを仮にLとする。 発端はLともう一人の生徒・・・・・・Mでいいだろう。 この両者が召喚した使い魔が全ての原因だった。 この使い魔達が、同性にも関わらずいちゃいちゃと。 それをみたLとMが、これを真似して遊んでいたのが学園中へ広まってしまった、ということらしい。 まあ、殆どの人間はLやMと同様にふざけているだけのようなのだが、中には本気になってしまった者がいる。 それはどうでもいい。 オスマンは思う。 まあ、確かに好ましいことではないのかもしれないが、目くじらたてることもないだろうに。 問題は余計な告げ口をした人間がいた、ということだ。 そのせいで王城はちょっとした騒ぎだとか。 (このような状況で、暇な奴らよ) 馬鹿馬鹿しい気分は募る一方だった。 一方で、目の前の教師達のことも気に入らなかった。 いつもそうなのだが、盛んに発言するのはコルベールくらいなもので、後の者はみな嫌味か責任逃れくらいしか言わない。 どいつもこいつも、とオスマンは思う。 熱意が足りない。 突然、いつかの承太郎の言葉が蘇った。 「国家にとって、教育というものは割の良い商売のようなものだ。金を掛けただけ、手を掛けただけ利益がある」 国が教育に力を入れる。 育った人材が国を潤す。 そうして得たものを再び教育へ投資し、さらに、さらに。 そうなのだ。 トリステインは小国だ。 だからこそ、少ない人間を鍛え上げ、磨き上げなければならない。 そうしなければ、他国に対抗できない。 これは国家の競争力に関わる問題なのだ。 これまで抱えてきた難問が解けていくような心地だった。 これからは忙しくなるだろう。 これまでの日々が恋しくなるかもしれない。 しかし、彼はもう決めたのだった。 後世、オールド・オスマンは偉大なメイジとして名を残すこととなる。 彼の名を冠した都市が一つ、大学が二つ。 胸像は百を超え、彼を扱った書籍に至っては千を越すだろう。 そんな彼について、必ず語られることが二つある。 一つはその好色さであり、一つは彼が手がけた数々の教育改革だった。
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異世界よりの来訪者。ロマンを掻き立てずにはいられないフレーズだ。 ただし「相手にもよる」という注釈つきで。 「そう。あなたは異世界からやってきたのね」 「驚かないんですか」 驚きゃしません。あんたにそんなこと言われて驚く人は、一人だっていませんよ阿呆のグラモン。 「どうせ理解できないだろうけど、一応教えといてあげる」 「はい」 「あんた誰彼構わずその話してるでしょ。昔ならともかくね、今になって真に受ける人間は学院中探したっていやしないの」 「……」 スッと表情が消え失せた。何も見ていない顔でわたしを見ている。お、怒ったのかな。 何よ。ちょっとばかり気圧されるけど、ここで退くつもりはないんだからね。 「この期に及んで法螺話でお茶を濁そうとするっていうの? わたしがそれを許すと思う?」 「……」 キーシュは机に立てかけてあった杖を手に取った。 手の動きには一掬いの淀みもなく、右手を除き眉の一本さえ動かさず、その挙動からは感情の一端すら読み取ることができない。 背中の産毛が逆立った。 「あんた、何をする気?」 とっさにわたしも杖を抱き寄せた。 何考えてるのこの男。どう考えてもわたしが被害者なのに。あんたは切れていい立場じゃないでしょ。 まさかここでドンパチやらかそうってわけじゃないわよね? ね? 「……」 杖を自身の口元へと近づけていく。 口? 口に近づけて何する気なのよ。ああやだ。こんなやつに絡むんじゃなかった。 わたしは杖を握る手に力を入れた。どうしよう。先制攻撃するわけにはいかないよね。でもこのまま待ってたらなんかとんでもないことになりそうな。うう。 呼気が樫の肌を湿らせる直前まで近づけ、キーシュはそこで杖を止めた。 この男がつかめない。何をしようとしているのか、何を考えているのか。 脅しているの? ゼロのルイズだからと足元を見られている? 怒りよりも先に他の感情が湧き上がった。認めなたくないけど、やっぱり怖いものは怖い。つばを飲み込む音が、骨を通して体の端々にまで響く。 わたしの見ている前で、形の良い唇が緩み、軽く開き、キーシュはのどを震わせ、 「ええ、こちらは問題ありません。『特異点』は確保済み、『アカシックレコード』は依然均衡を保持」 「は?」 「この世界が内包する『宇宙エネルギー』は緩やかな進化の螺旋を下りつつあります。全ては『大宇宙の始まり』が定めたままに」 「……キーシュ?」 「なんですって? 『惑星開発機構』が動いた?」 「あのね」 「それではこちらもAクラスの能力者……『エージェント』を用意しなければ」 「いい加減にしなさいよ」 「なんということだ。これが『世界』の選択だというのか……」 「いい加減にしろって言ってんの! 杖とお話するのはやめなさいっ!」 キーシュ。名門グラモン家の五男で末っ子。 庶子とのことで、たしかにギーシュとは似ていない。きっと他の兄とも似てないんだろう。 整った顔立ち、浮世離れした雰囲気、尖った耳、これらの特徴は彼の母親がエルフであるという噂の裏づけとなり、社交界でまことしやかに囁かれるグラモン元帥の荒淫ぶりも証明していた。 その複雑な生い立ちを聞き、彼に同情を示した者は少なくなかったが、今となっては彼に同情する者などいようはずもない。 そりゃねえ。こんなやつなら同情する気も無くなろうってものよね。 キーシュを知る人間は、例外なく彼のことを変人と形容する。わたしは心の中で阿呆と呼ぶ。 この阿呆メイジは、誰彼構わず異世界からの来訪者だと騙ってまわる。 それを聞かされた九割九分の人間はこいつとの付き合いを断念し、残り一分の人間が真っ正直に信じちゃったせいで一時期問題になっていらしい。噂で聞いただけだけど。 ここで退学処分にでもなれば良かったのに、結局キーシュは学校に居残った。 これは父親の威光云々関係無しに、魔法の才能が惜しまれたんだと思う。悔しいけど。 キーシュはとても極端な魔法の才能を持っていた。ごく初歩の魔法が使えなかったと思えば、スクウェアでもできないようなことを簡単にしてのける。 最高クラスに純度の高い金を練成した。拳大の金剛石を練成した。それどころか世界に存在しないはずの物質を練成した。 こいつに関して伝わってくる話は噂話の域を出ないものばかりではあったものの、先生の態度なんかを見ればどの程度の真実味があったのかは大体分かる。 建設的なわたしは、思うだけで腹の立つこの阿呆のことをなるだけ考えないようにして、そうしているうちに名前まで忘れて今に至っていた。 「わたしは怒っているの。分かる? 怒っているのよ」 「モチロンワカッテイマスヨ」 「片言で話すなっ、わたしの目をみろっ、誤魔化そうとしないでっ!」 名門の出、ドラマチックな出自、悪くないご面相、偏りがあるとはいえ天才的な魔法の腕。 これだけのものが揃っていれば、薔薇色の学院生活を送ることができたはずよね。 でもキーシュは法螺をふき続けて楽しい生活を捨てた。意味が分からないとかそういう問題じゃない。 今ではまともに会話をしようという生徒なんて兄のギーシュくらいしかいない。 「得意の法螺で貴族どもを慌てふためかせる」という不埒な理由から、使用人たちとは親しいらしいけど。 平民貴族関係なく友達がいないわたしに比べればまだまだってとこね。 ……あれ。なんでだろう、目から心の汗が……。
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「全員、杖を遠くに投げなさい」 フーケの命令に、ルイズらはしぶる様子を見せた。 貴族、メイジといっても、杖なしではただの人間である。いま杖を捨てるということは、唯一の対抗手段を奪われるということだった。しかし『破壊の杖』を向けられていたのでは、結局どの道もない。皆大人しく杖を投げた。 それを見届けると、フーケは懐から杖を取り出して振った。するとひとの背丈ほどもある、さきほどのゴーレムを思わせるような土で出来た腕があらわれる。腕は地を滑るような気味の悪い動きをすると、ルイズたちの杖を掴み取って操り主の足元まで運んだ。わざわざそんなことまでするあたり、フーケも用心は怠っていないらしい。 「あんたも、その折れた剣を投げるのよ」 リキエルにも声がかかった。フーケにしてみれば、自慢のゴーレムの攻めをことごとく避けられ、挙句には受け止めまでされたのだから、当然といえばそうかも知れない。 ここでもリキエルは、まるで自失した人間のように口を半開きにして空を眺めていたが、やがて緩慢に視線を移して、手の中の剣の柄を見た。それから、これものんびりとした動きでフーケを見、瞬きふたつ分ほどの間が経ってから、その足元めがけて無造作に柄を放り投げた。 それから間もなく、リキエルの左手が輝きを失った。全身の傷の痛みが戻って来て、ひどい苦しみがあるはずだが、リキエルはそれをおくびにも出さなかった。悠然ともいえる態度で、フーケを見返している。 その視線を不気味に思ったか、フーケは一瞬リキエルから目を外したが、自身の有利を思い直したようにまた強い目を向けた。 「この、嘘つきッ」 「いったいどうして!」 少しでも時間を稼ごうという算段なのか、それとも単純に怒りがそうさせたものか、キュルケとルイズが前後して叫んだ。 それを受けたフーケは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、動じる様子もなく淡淡と言った。 「義理はないけど、まあいいわ。教えてあげる。私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ。でも、わからなければひとに聞けばいいだけなのよね」 「学院関係者なら、それを知ってるだろうって?」 「そうよ。まさかあなたたちみたいな学生が出張るとは思わなかったし、あまり期待もしていなかったけど、たまたま偶然、アタリを引いたみたいでよかったわ」 「……わたしたちの誰も、知らなかったらどうするつもりだったの?」 眉をひそめながら、ルイズが聞いた。 「そのときは、全員ゴーレムで踏み潰して、次の連中を連れて来るだけよ。いい考えでしょ」 ま、その手間もこうして省けたわけだけど。フーケは酷薄に笑って、あらためてルイズ達に見せつけるように、『破壊の杖』を乗せた肩を揺すった。 「さ、質問タイムはもう終わり。そろそろお別れのお時間かしらね。全員、もう少し後ろに下がってちょうだい。こんなに近くで使うと、私まで巻き込まれてしまうわ」 なら自分が下がればいい。顔にそう書きながらも、ルイズたちはフーケの言いなりになって後退しはじめた。せめてもの抵抗というように、ひどく遅遅とした動きであった。 タバサなどはここに来てもフーケの隙をうかがって、反撃の糸口を探る様子だったが、賊もさる者で、喋っている間もそういったほころびを微塵も見せなかった。どうやら本当にお手上げである。 しかしそんな中で、やはり様子の違うやつがひとりいた。むろんリキエルである。こんなときだというのに、顔色ひとつ指一本たりとも動かさず、奇怪なほどの落ち着きを見せる姿は、体を這う蟻を気にしない牛といった風情である。あるいは純然たる馬鹿野郎にも見えなくはなかった。 「リキエル、あんたはずいぶんと落ち着いてるのね」 揶揄するようにフーケが言うのに、リキエルは少し首を傾けた。 「存外に勇気があるのかしら」 「さあなァ。それほどでもねーと思うがな、自分では。ただ、必要ないと思ってはいるな。お前の言うことに唯々諾々と従う必要はな」 「この状況がわかってないわけじゃないわよね」 「ちゃあんと、わかってるぜ。たぶんこの場にいる誰よりもなぁああ」 リキエルは腰に手を当て、挑むような口調で言った。口は笑っている。皮肉っぽさはなく、代わりにぎらぎらするようなものがあらわれていた。 対してフーケは、つかの間目を細めたものの、こちらも艶の乗った笑顔で返した。 ルイズたち三人は、ほとんど蚊帳の外といった体だった。特にルイズはまだ混乱が収まっていないようで、まったくもってちんぷんかんぷんという顔をしている。他のふたりが厳しい顔で成り行きを見守るのと対照して、どこか間の抜けた顔で、フーケとリキエルとの間に視線を彷徨わせるばかりである。 フーケが言った。 「そうでしょうね。……そしてそんな余裕のあんたは、いまこう思ってるんじゃないかしら。『こいつには破壊の杖が使えない』なんてふうにね」 「……ムッ」 リキエルは笑みを消して、射るような視線をフーケに向けた。 肩から『破壊の杖』を下ろしながら、フーケは続けた。 「あまり、私を甘く見ないで欲しいわね。この『破壊の杖』を最初に手に取ったとき、見た目や感触より全然軽いんで驚いたわ。でもね、いまこうして持った感覚は、それよりまた少し軽い。これはどういうことなのかしら」 「…………」 「さっき、あんたがわたしのゴーレムを吹き飛ばすのを見ていて、ひとつ気づいたことがあったわ。ゴーレムに向かって飛んで行ったものは、あれは魔法とかじゃないわね?」 聞くというより、確かめる口調でフーケは言った。もう種は明けているとでも言うような、不敵な物言いである。リキエルが驚いたように軽く目を見張っているために、フーケはごく上機嫌なようでもあった。 「それを併せて考えてみたらね、わかったのよ。威力は二段も三段も違うけど、この『破壊の杖』は、きっと平民の使う銃みたいなものなんでしょう。しち面倒に弾を仕込まなきゃならない、あの銃」 「いや、本当に……甘く見ていたぜ」 仏頂面でそれまで黙っていたリキエルが、唐突に言った。 「その通りだ、確かに一発。そいつが撃てるのはそれだけなんだと」 「何よりあんたの態度が腑に落ちなかったわ。こんな物騒なもの向けられてるのに、あんたは顔色ひとつ変えなかったわね。欠点を知ってたら、怖いわけもないわ」 「鉄くずと同じだからなァ、銃と違ってよォ~~。怖くもなんともねーってのは、その通りだな」 フーケは渋い顔をした。薄々気付いてはいたが、改めて手に入れた宝がゴミになっていると言われ、気落ちを抑えられなかったようである。 「ええと、なんだっけな。いま思い出したんだが、そういや最近なんかで見たんだ。いや、読んだんだっけ? 確か、ずいぶん昔から使われてる兵器とかで――」 失望のまま軽くため息をつきながら、フーケは胸のうちに、もやもやと腑に落ちないものを感じていた。さっきから、リキエルがやたらとよくしゃべっている。 フーケはいま、自分はリキエルよりも一段上にいると思っている。『破壊の杖』が使えないのを看破したことで、裏の裏をかいたと確信している。念を入れて、小娘たちの杖もリキエルの剣も奪ってあるわけだから、実質的な立ち位置から何から、たしかにすべて上と言ってよかった。 「Mなんとかかんとかって名前でよお、使い捨て目的で製造されたんだと。……どうしてだろうな、使い捨てとか聞くとよォォォオ、無性に勿体なく思えてくるぜ。貧乏性なのか?」 だがリキエルは、まったく焦りを見せていなかった。『破壊の杖』のことを言っても、多少驚いた様子を見せはしたが、ことさら動じたふうではない。そしてまた、観念したようでもない。 「そうだ、M72 LA……W軽ロケットランチャーだ。所詮は付け焼刃だしなァ、抜け落ちて行ってるようだぜ、脳みそから。正直なところ、どうでもいいことだしなァ~~」 「ちょっとリキエル! さっきからなんの話してるのよ!」 「ルイズゥ~、……ひとの薀蓄は黙って聞くものだぜ、どんなにうざったらしくてもな。そうしてやるのが、人間の優しさってものだぜ」 また、たまりかねたというように怒鳴ったルイズに、リキエルは肩をすくめて、いなすような口をきいた。場の逼迫した空気から、このふたりだけが奇妙にズレている。 「と言うよりもだな、お前には緊張感ってものがないのか? 見ろよ、キュルケにタバサを」 「あんたってばッ! 緊張感ですって? どの口がそれを言うのよ!」 「落ち着けってよオオ――ォ。それなら、倒すか? そろそろ捕まえるんだな? これからこの、『土くれ』のフーケをよおおお」 耳を疑ったのはフーケである。そして彼女は次に、リキエルの正気を疑った。 『破壊の杖』が役に立たなくとも、依然フーケには魔法がある。対してリキエルは丸腰であって、ために使い魔の能力がなく、まして軽くない負傷までしているのだから、いまはただの人間以下と言えた。よしんばフーケに魔法がなくとも、勝てる見込みは薄い。ひっくり返しようがない。それにつけても、リキエルの自信に満ちた言動は異様だった。 「聞き捨てならないわね。あんたは満身創痍じゃないの。まして武器も持たずに、どうやって私を捕まえるって……倒すって言うのかしら」 鋭くフーケが言った。声には苛立った響きがある。 ルイズとどこか滑稽なやりとりをするリキエルだったが、再びフーケと向き合ったときには、その弛緩した感じは消えていた。 リキエルは、フーケに向かって軽く指さした。 「オレにはいま、奇妙なことだが……『確信』がある。お前が魔法を使う前に、杖を落とせるという『確信』だ。得意科目のテストを受けるときのように、出来て当然だという感覚があるのだッ。……お前は自らの手で、その杖を落とすことになるだろうッ!」 だらりと両腕を下げると、リキエルは無造作に歩き出した。大した意気も見られない動きだったが、フーケはわずかに飛びのくように足を引いて、杖を構え直した。リキエルは意に介さない。ただ視線だけを、まっすぐにフーケの手元に向けている。初めのうちはそれなりに開いていた距離が、見る間に縮まって行く。 末広がりの厚い雲がゆったりと流れて来て、その端が傾きを大きくしはじめた日にかかり、一帯に濃い影を落とした。影はすぐに過ぎて行って、またさらりとした春の陽射しが地面に降り注いだ。既にリキエル、フーケのどちらもが、相手の間合いに誤魔化しようもないほど入り込んでいる。 追い詰められたような形で、フーケは杖を振り上げた。と、胸元まで引き上げたところでその動きが唐突に止まった。ルイズたちは、何事かというように半端な格好で固まってしまったフーケを注視したが、フーケ自身、なぜ腕が止まったのかわからないような、唖然とした顔になっている。 「一本!」 そう呟きながら、リキエルが右手の人差し指を伸ばした。すると何がどうなったのか、まるで歯車の噛み合った機械どうしのように、フーケの右人差し指が同じようにまっすぐに伸びる。 「えッ」 「あ…ゼロ本……。あ…ゼロ本」 言葉に合わせて、リキエルは拳を握りこんだり、考え直したように開いたりする。フーケの拳も、またそれと同じに動いた。小振りな杖が、その手からあっけなく滑り落ちた。 意に沿わない動きをする自分の指に、息を詰めて瞠目するフーケだったが、つぎの動きは素早かった。大きく跳びすさってしゃがみ込むと、左手にいくつか小石を握りこんで、リキエルに投げつける。 フーケは、それでリキエルをどうにかしようなどとは思っていなかった。何がどうなっているのかは見当もつけられないが、どうやらまずい状況になりつつあるのを理解しているだけである。ともかくいまは、リキエルから離れなければならない。注意を逸らさなければならない。ただそれだけを考えていた。 小石たりとはいえ、半ば力任せに投げられたものだから、その速さはなかなか避けられるものではない。そういうものが五、六個ほどまとめて、リキエルめがけて思い切りよく飛ぶ。そのうちでも一番大きな礫は、まさにその顔面を襲おうとしていた。 リキエルを除いた四人が、いよいよ目を見張ったのはそのときである。リキエルの鼻柱に叩きつけられるかに見えた小石が、急に軌道を変えて、あらぬ方向へと吹っ飛んで行ったのだ。風に巻かれてというような動きでは――そもそもから大風もない小春日和である――なかった。石はリキエルを避けるように、不自然な反発を見せたのである。 この奇怪な現象に際しても、リキエルは指一本動かさないどころか、小揺るぎもしない。目の奥に灯火して、ほとんど無思慮に見える格好のまま、前に前にと出て行くばかりである。 他方フーケは、立て続けに起きる奇妙を目の当たりにし、転がるように優勢の体を失って、いまや頬を赤く染めて額に汗している。目はせわしなく動いた。右へ左へ、リキエルの顔へ、ルイズらの方へ、またリキエルの顔へ。なんでもいい。状況を打開するものを探した。 「やめたほうがいいな、それは。逃げようってのはな」 静かにリキエルが言った。 「もう一度、杖をとってみるか? お前の方が杖には近いからな。オレがお前にたどり着くのより、多分だが、お前の方が早いだろう。やってみなよ。オレは足を怪我してもいるしな」 「…………」 「だが無駄になる。きっとだ。大人しくしたほうがいいな、水の中のスッポンみたいにだ」 フーケは一瞬身体を震わせたが、すぐに意を決したように、自分の杖に飛びついた。どうせ一八の賭けである。残された道はなかった。 そしてそれは、リキエルの言ったように実を結ばなかった。つぎに地面を踏んだとき、フーケの足首から先は、これもどういったわけかは知れないが、痺れたように力が伝わらなくなっている。重心の置き所を見失ったフーケの身体は、見えない力に抑え込まれたように前のめった。 なんとか踏みとどまって顔を上げたフーケの視線の先に、剣の柄を拾うリキエルの姿があった。 「いらないだろうと思ったんだが、やっぱりよぉ、あんまりちゃんと動けなかったな。これを手放してしまってはな。時にフーケ、腹の中に子供なんかいないよな? お前いま、妊娠しているか?」 一瞬、フーケは言葉を失った。言われた内容が唐突に過ぎて、呆気に取られている。 「どうなんだ? ン? 妊娠、懐胎、出来ちゃってるのか?」 「何よ、その質問は。この期に及んでハラスメント? 舐めくさってくれて!」 「ちょっとした確認をしているのだ。オレはいまから、『土くれ』のフーケ、お前の腹を殴って昏倒させるつもりでいる。もし胎児がいるのを知らずにそんなことをしてしまえばだ、それはすごく心苦しいことだからな」 フーケはからかわれているのかと思った。しかしリキエルの顔を見れば、ふざけているようでもなかった。他意がないことは、それもおかしなことだが、わかった。 肩口から、力が抜けていくようだった。 「……身重で泥棒が務まるもんか。それにわたしは、こう見えて身持ちは固いのよ」 あまり抑揚のない声で、フーケは言った。 「そうか。なら問題ないな」 「ええ、ひと思いにやってほしいわね」 「その前にだ。悪いんだがな、もうひとつ聞いておきたいことがある。これもオレにとっては重要なことだ。質問させてもらうぜ」 「もうこっちは腹を決めてるってのに。まあいいわ。で、何かしら」 リキエルは無造作にフーケに近寄り、つかの間、世間話のように言葉を交わした。距離があって、ルイズたちにはその会話は聞き取れなかった。 やがてリキエルは、得心したように頷いた。そしてまた二言三言すると、やおら息を詰めて、フーケの腹に剣の柄を打ち込んだ。声もなく、フーケの全身から力が失われた。 ◆ ◆ ◆ 「盗人を、捕らえてみれば、美人秘書、だったのじゃな。ミス・ロングビル、彼女がのう」 いかめしい顔で、オスマン氏は言った。横にはコルベールがいて、前にはルイズ以下、フーケ討伐から帰った四人の顔が並んでいる。 オスマン氏は、さりげなくリキエルの方に目をやった。三人娘がけろりとしている一方で、リキエルだけはいくつもの手傷を負っている。応急処置はきちと済ませてあるようだが、それでも見過ごし出来ない傷は多い。無茶をしたらしいのと、オスマン氏は心うちで唸った。 実際、フーケを倒した後にリキエルが立っていられたのは、ひとえに使い魔の能力によるところであった。そしてそれがありながらも、勝利に沸いたルイズらが抱きついた途端に、その身体は朽木のように傾いだのである。 馬車を繋いだところまで戻ってきたときには、リキエルは隠れもなく身体をがたつかせていた。それを見かねたタバサによる『水』の魔法で、一応の処置がなされたのであった。ちなみに、昏倒したフーケを手際よく縛り上げたのもタバサである。 そのフーケは、今は学院の門脇に設けられた詰め所に押し込められている。明日の昼か、早ければ朝のうちに、王宮の魔法衛士に引き渡されることになっている。 目線を宙に放って、髭をなぜながら、オスマン氏は先の言葉に繋げて言った。 「なんの疑いもせずに秘書にしてしまったが……ふむ」 「いったい、どこで採用したのですか?」 「んん。彼女と出会ったのは、そう、街の居酒屋じゃった」 コルベールが聞くのに、オスマン氏は目を細めて応じた。 「は、居酒屋?」 「私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」 そのときのことを思い出して、威厳を保つのも忘れてだらしなく鼻の下をのばすオスマン氏に、コルベールは冷たい目を向けた。 「で?」 「それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」 「すみません、学院長。よく飲み込めませんで、いま少し詳しくお願いします」 「いやあ彼女、美人じゃったし、おまけに魔法も使えるというもんでな。で、採用」 呆れた話だった。身辺怪しからずや否やの調べもなしに、ろくに話したこともない人間を酔った勢いで秘書になどとは、学院の長を担う身にあってあるまじき失態といえた。それまで相槌をうっていたコルベールも、聞いて損したというように顔をしかめている。 はっきりと軽蔑した口調で、コルベールは吐き捨てた。 「話はわかりました。オールド・オスマン、さしあたって死んだほうがいいのでは?」 「そう怒らんでもよかろう。それに、そうじゃ。今になって思うに、あれも学院に潜り込むためのフーケの手じゃった。愛想を振りまき、世辞を言い、媚を売って来る。しかも、尻を触ってもけろりとして、いやむしろ照れたように微笑んどった。いや、もう、老い先短い耄碌ジジイを騙すのには十分じゃろ? あ、こりゃ惚れてる? とか思っても仕方なかろ?」 「耄碌しきる前にさっさと辞職しては?」 「そう冷たい目で見てくれるなよ、コルトパイソン君。私は悲しい。それに君も男ならわかるじゃろう? 美人というものは、ただそれだけでいけない魔法なのじゃ。な、そうじゃろうッ! カァーッ!」 「異論はありませんが聞く耳も持ちません。それと私はコルベールです。いやさ、そんなことよりオールド・オスマン。そろそろ話を戻しましょう」 言ってコルベールは、ルイズたちを示した。そちらに向き直ったオスマン氏は、憤まんや呆れ、軽蔑に満ちた四つの顔にぶつかった。 沈黙して二、三度髭をいじると、オスマン氏は次第にいかめしい面構えに戻って行った。十秒前の醜態は、幻にでもするつもりらしい。 「さてさて、よくも『破壊の杖』を取り戻してくれたの、諸君。ならびに盗賊フーケの捕縛、まことにご苦労じゃった。ありがとうの、めでたく一件落着じゃ」 オスマン氏はもう一度、ありがとうと言った。リキエル以外の三人は、それだけでさっきとうって変わって明るい顔を見せ、頭を下げた。ルイズなどは感極まったように顔を赤くして、口元を震わせている。 そんな彼女たちを見てオスマン氏は微笑んだ。それから、いま思い出したといったふうに、ルイズとキュルケに対する『シュヴァリエ』の爵位申請を、既に同位を持つタバサへは『精霊勲章』の授与申請を、それぞれ宮廷に申し入れした旨を話した。ルイズらはよりいっそうの喜びに顔を輝かせた。 ――甲斐があったな、この様子なら。 それまでつまらなそうに突っ立っていたリキエルも、オスマン氏のように微かに笑った。喜びに沸く彼女たちを、特にルイズを眺めていると、全身の傷の痛みも悪くなく思われて来るようだった。 ただ、当の本人はそうでもないらしかった。自分たちに向いたリキエルの視線に気づくと、ルイズは少し鼻白んだようになり、そのままオスマン氏に向き直って言った。 「オールド・オスマン。リキエルには、何もないんですか?」 「……ふむん」 オスマン氏は困惑したようにうなり、眉間の皺を深めた。 「残念ながら、彼は貴族ではない」 「でも、リキエルは――」 「いや、いいんスよ。オレは別に」 何か言いかけようとするルイズをさえぎって、リキエルはそう言った。本音では、ちょっとくらい何がしかの褒美を貰っても罰当たるまい、と思ったりもした。しかし、爵位とか勲章はあんまり大袈裟で、金品では大っぴらにそう言うのもはばかられる。実際に受け取ることを考えても気が引けた。 ルイズはまだ何か言いたげだったが、リキエルが顔と手を横に振ると、ようやく引き下がった。 それを見届けると、オスマン氏は手を叩いて仕切りなおしにかかった。 「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃな。フーケの件も収まったしの、祝勝も兼ねて、予定どおり執り行うこととする。当然、主役は君たちじゃ」 キュルケが叫んだ。 「そうでしたわ! すっかり忘れておりました!」 「うむ。ここはもうよいから、部屋に戻って用意したまえ。せいぜい着飾るとよいじゃろう。なにせ主役じゃよ、主役。より取り見取りもいいところじゃよ、主役」 キュルケは礼もそこそこに、タバサの襟首を引っ掴んで部屋を飛び出して行った。 それに続いて、ルイズとリキエルも部屋を出ようとする体だったが、オスマン氏に引き止められた。 「ミス・ヴァリエール、すまんがリキエル君をお借り出来るかの」 主従二人は一瞬目を交し合ったが、リキエルが扉のほうを示して、ルイズを促した。訝しげにしながらも、ルイズは深い礼を残して学院長室を後にした。 「コルベール君、君も席を外してくれんか」 「はあ、私もですか」 「うむ。そのむかし、私が東方の地で修めたパズス流柔術の奥義を、彼に授けようと思うのじゃ。門外不出なのでな、君にも見せられん。わかってくれ」 コルベールは苦笑とも呆れともつかない顔をして、しょうがないですなとこぼしつつ、出て行った。 「さて、君に残ってもらったのは他でもない。ちょいと聞きたいことがあるでな。それと、話したいこともじゃ」 悪いの、と言ってオスマン氏は笑い、腕を組んで考える姿になった。話したいこととやらを、頭の中で整理している様子である。それから間もなく、オスマン氏は静かに語り始めた。 いまから三十年ほども前、オスマン氏はある森を散策しているとき、ワイバーンに襲われた。見たこともないほど巨大な、雌の個体だったという。折も折で体調を崩していたオスマン氏は、逃げるのがやっとだった。 あっという間に追いつかれ、オスマン氏はやむなく杖を抜いた。あるいは軽くない手傷を負うだろうが、倒せる自信はあった。だがそうなれば、付近に人里の気配も見えない深い森であったから、後は野垂れ死ぬに任せる他にない状態だった。 ここで死ぬや否やと腹をくくりながら、オスマン氏はワイバーンと正対する機をうかがった。勝機があるとすれば、それは不意討ちだった。 そしてワイバーンが、オスマン氏にそのひとの腕ほどもある牙を剥いたときだった。オスマン氏は耳を飛ばすような大音を背に受けた。振り返ったオスマン氏は、逆に射す陽の光の中に二つの筒――『破壊の杖』を抱えた、大柄なひとの形を認めた。そしてそうかと思う間に、その人影はゆらりと傾いで倒れた。 彼は傷を負っていた。オスマン氏は直ぐに彼を学院に連れ帰り、手厚い看護を施したのだが、手遅れだった。傷はそう深くもかったのだが、ずいぶんと前に、そこから悪いものが入り込んでいたらしかった。三日して、彼は死んだ。 「そのときの『杖』は、彼の墓に一緒に埋めた。そしてもう一本は、恩人の形見っちゅうことで、勝手に拝借させてもらった。それが今回、君らの取り戻してくれたものじゃ」 オスマン氏は、懐かしむようにしばし目を閉じてから、リキエルに目を向けた。穏やかだが、どこか刺すようなものも孕む視線だった。 「ところでじゃ。つかぬことを聞かせてもらうがの」 「はあ」 「君は、どこから来たのだね? 包み隠さずに言うてほしい」 「オレは――」 そこで言葉を切って、リキエルはしばし考えたが、結局は正直に言うことにした。隠すことでもないと思った。ただ、自分でも与太話に思えるような出来事を、目の前の学院長が信じるかはわからないとも思った。 「オレが来たのは、こことは違う世界なんスよ。あるときちょっとしたことがあって、気を失っちまったんスけど、次に目が覚めたら、ルイズに召喚されてたってわけです」 「ふむ、そうか。そうなのじゃな」 リキエルの案に反して、オスマン氏は得心したように頷いた。 「信じるんですか? オレは確かに事実を言ったつもりだが、冗談みたいな話だ」 「おお、信じるとも。というよりもな、わかった気がしたのじゃよ。……いま話した彼のことじゃが、死ぬ間際まで、うわ言のように言っておった。元の世界に帰りたいとな」 「…………」 「何のことだか、私には見当もつかんかった。じゃが、君が召喚されて来た後でな、あのコルベール君が興奮して語ってくれたのじゃ。君と一緒に召喚された奇妙な形をした物体を、君から借り受けたとな。それで、死んだ彼と彼の持っていた『破壊の杖』が思い起こされた。もしやと思うた。彼や君は、このハルケギニアとはまったく別の場所から来たのでは、と」 問いかけて来るようなオスマン氏の視線を受けて、リキエルは答えた。 「オレの住んでたところは、アメリカって国のフロリダって州です。話を聞く限りじゃ、その恩人もアメリカ人なんじゃねーッスかね。そして、ロケットランチャーいくつも抱えてるなんてよォー、尋常じゃあないぜ。どこかで、紛争だか戦争やってたんだ、きっと」 「戦争か。それで彼は傷を負ったか。まだ若い身空でのぉ、さぞ国に帰りたかったじゃろう」 改めて悼むように、オスマン氏は深く息をついた。それから顔を上げると、リキエルに笑いかけた。 「すまんかったな。老いぼれのために時間を割かせてしまったの」 「いや、いい時間を過ごせたんじゃねーかと思いますよ。たぶん、互いに」 「重畳じゃな。よければこの後のパーティーも、楽しんでくれたまえ。君も主役の一人じゃ」 「せいぜいそうさせてもらうかな。料理なんかは期待大だ。……ああ、そうだ。こっちからもよォ~、一つ聞きたいんスけど、いいですか?」 踵を返しかけてとどまり、リキエルがたずねた。オスマン氏は鷹揚に頷いた。 「確認みたいなもんなんスすけどね。オレのこの左手の、これ。武器なんかを持つと光って、体が軽くなったりするんスけど、使い魔の能力ってやつなんですか?」 「いかにもそうじゃ。そのルーンをつける者は『ガンダールヴ』といってな、強力な使い魔じゃ。そして、ここだけの話――」 オスマン氏はそこで区切りをつけた。そしてリキエルに、もっと近くに来るよう手真似した。さらにリキエルが側に来ると、机の上に身を乗り出して、必要もないのに声をひそめて続けた。 「伝説の使い魔の証でもある」 リキエルは眉を上げた。オスマン氏の大仰な態度からして、話半分で聞くべきことかも知れなかったが、それ以上に興味をひかれた。 「伝説? それじゃあ、オレは伝説の使い魔か」 「うむ。なぜそのルーンが君についたのか、それは皆目わからんがな」 無責任に言って、オスマン氏は元のように椅子に納まった。それから何事か思いついたように、そうじゃそうじゃと呟き手を叩いた。 「何も褒美が出せん代わり、と言ってはあれじゃが、これを受け取ってくれんか」 言いながらオスマン氏は、机の引き出しを開けた。 「これも、彼の形見の品じゃ。『固定化』があるとはいえ、さすがに土の下に埋めるのもはばかられたのでな」 オスマン氏が差し出して来たものを、リキエルは反射的に受け取った。 手のひらに余るくらいの、一冊の本だった。別段、読書家というわけでもないリキエルにとっても、その題名はある種の馴染み深さを感じさせるものだった。版はかなり古く、ところどころがよれてしまっているが、聖書である。オスマン氏の恩人とやらは、よほど信心深い人間だったのだろう。 しげしげと書を眺めるリキエルに、オスマン氏は言った。 「どうやらそれも、君の世界のものらしいの。私には読めんかったよ。まあ、本は読める人間の手元にあった方がよいじゃろうて」
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わたしが医務室に着くと、既にモンモランシーが治癒を受け終わり、 ベッドで静かに寝息を立てていた。 わたしも続けて治癒を受け終わり、わたしとギーシュとモンモランシーの三人 だけとなった。 なんと声を掛ければいいのか考えてるとギーシュから声を掛けてきた。 「すまなかったねルイズ、彼女は君がチヤホヤされる事に嫉妬してたんだよ。 彼女には僕が良く言い聞かせておくよ」 てっきり、わたしを責めるかと思ってたのに。 「ギーシュ・・・どういう風の吹き回しよ?」 ギーシュはファサと髪をかきあげた。 「なに、兄貴に君の事を頼まれたからね」 ・・・・・・? 「ちょっと待って、頼んだのは連れて帰る事で、ずっと面倒を看ることじゃ無かっ たと思うんだけど?」 「いいじゃないか、そんな細かい事は」 あっはっは、と高笑いをあげた。 「細かくないわよ、あんた一生わたしの面倒を看るつもり?」 「一生じゃないさ、君が一人前のメイジになるまでは見守るつもりさ」 「あんた、わたしが『ゼロ』だということを忘れたの?」 「その事について僕は大して心配なんかしてないさ。君は兄貴を召喚したんだ 近い内にきっと僕など足元にも及ばないメイジになるさ」 ギーシュがわたしをプロシュートを通じて認めてくれている。 「ほ、褒めたって何も出ないんだからね」 「別に見返りが欲しくてやっている訳じゃないさ」 コンコン。開けた扉からキュルケがノックをしていた、タバサも一緒だ。 「お邪魔だったかしら?」 「ちょ、キュルケ!そんなんじゃないんだから」 「よしてくれたまえキュルケ。僕には心に決めた人がいるのだから」 わたしは不快を隠さずキュルケに問う。 「で、何しに来たの?」 「何しに来たのとは、ごあいさつね。お見舞いに来たんじゃないのよ。後、報告」 「報告?」 「さっきの騒ぎ、授業に来たコルベール先生の耳に入ってね、珍しく恐い顔を してたわよ。後でここにも来るんじゃないかしら」 バタバタと廊下から足音が聞こえてきた。 「早いわね、もう来たわ」 キュルケが廊下を見ながら呟いた。 「コルベール先生・・・」 先生が息を切らせながら部屋に入ってきた。 「よかった、無事だったのですね」 先生は静かに眠っているモンモランシーの顔を確かめ息を整えてから、 こちらを向いた。 「ミス・ヴァリエール、事情は聞きました。 きみは自分の魔法をミス・モンモランシーに打ちましたね」 確かに、今のコルベール先生は恐い顔をしていた。 何人も人を殺しているような・・・プロシュートと少し雰囲気が似てる・・・ ・・・まさかね・・・。 「はい、その通りですミスタ・コルベール」 後悔はしていない。わたしはモンモランシーが許せなかった・・・ 「この貴族の学び舎で『規則』を破り魔法を打ち合うなどと、とても許せる 行為ではありません。この事は実家に連絡させていただきますので そのつもりでいるように。」 今、何て言いました? 「ごめんギーシュ、もう一回先生を呼んできてもらえる?まだ耳の調子が 良くないみたい・・・実家に連絡するって聞こえたわ」 「聞き間違いではありませんよ、ミス・ヴァリエール」 きっぱりとコルベール先生は言った。 「ちょっ!ちょっと待ってくださいよッ!」 「う、嘘ですよね。ちょっとおどかして気合を入れてから あとで本当は許してくれるんですよね、罰当番とかで」 コ・・・コルベール先生の目・・・ いつもの暖炉の火のような暖かい眼差しなんかじゃなく トライアングルスペルの炎の如く全てを焼き尽くさんと燃えている・・・ わたしの取るべき行動は・・・ わたしは部屋の窓を開け、窓枠に両手をかけ足を乗せ、そして・・・ 「ちょっとルイズ、ここ三階よ!」 キュルケに後ろから羽交い絞めにされた。 「放して、放してよキュルケ」 死に物狂いでもがくが体格の差で、わたしは部屋の中央に戻された。 「もうダメよ・・・おしまい・・・コルベール先生に連絡されたら・・・ あたしもう・・・生きてられない・・・もう死にたいわッ!!クソッ!!クソッ!! 飛び降りたいよ~、窓から飛び降りたいよ~」 嘆くわたしをキュルケが冷たく見下ろしている。 「・・・さっき、あなたの目の中にダイヤモンドのように固い決意をもつ『気高さ』を みたわ・・・だが・・・堕ちたわね・・・ゼロのルイズに・・・!!」 「ンなこたあ、どーでもいいのよッ!」 キュルケの侮辱も今はどーでもいい・・・ 「お・・・おわりよ・・・わたしはもう・・・おわったのよ・・・」 「ちょっとルイズ、一体何なのよ」 わたしの只事じゃない様子にキュルケが心配そうに声を掛けてくる。 「親がそんなに恐いの?」 親という単語が出ただけで震えが止まらない。 「な、なんて言ったら理解してもらえるのかしら・・・ そうね、プロシュートが『二人』説教しに来ると想像してみて」 嫌な沈黙が場を支配する。 「ご、ごめんルイズ。あたし用事を思い出したわ」 キュルケが慌てて部屋を出て行こうとする。 「用事って、どこに行くのよ?」 「ちょっとスティクスに会いに・・・」 「別れたんじゃなかったの?」 「・・・じゃあ、ペリッソン」 「じゃあって何!」 わたしとキュルケが言い合いをしている脇をそっとタバサが抜けようとしていた。 「ちょっとタバサ、どこに行くのよ?」 「・・・シルフィードにエサあげなきゃ」 「あんた、いつも放ったらかしでしょうが!」 視界の隅にギーシュが映る。モンモランシーをやさしく起しているところだった。 「さあ。ここは騒がしいので自室でゆっくりと休もうじゃないか」 「ギーシュあんたは見捨てないわよね、わたしを見守ってくれるのよね」 蜘蛛の糸に縋る思いでギーシュを見つめた。 人目があっても『あの方』の罰が緩くなるとは思えないが、もしかしたら九死に 一生を得るかもしれない。 「うむ、確かに言った!」 ギーシュは力強く頷いた。 「だが、それはそれ、これはこれだ!!」 「うらぎりものおおおおおおぉぉ!!」
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「……ズ………さい……ゥ~…」 寝ているルイズの頭に何か声が聞こえるが寝起きが壊滅的に悪いルイズだ。当然この程度では起きはしない。 「…イズ……なさい……フゥ~…」 今度はさっきよりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。妙に重圧感のある声だったのでさすがのルイズも目を開ける。 「ルイズや…起きなさい…ブフゥ~~」 辺りを見回すが何も居ない。だが景色には見覚えはあった。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭だ そして何故かベッドがそこにあった。 何故ベッド?とルイズが頭に「?」マークを浮かべていると突如 グォォォオオォォ という音と共にベッドに四肢と頭が生える。 ベッドが突然縦も横も巨大な男になったのである。正直言ってビビる。そりゃあジョルノだってビビる。 「……あんた…誰?」 恐る恐るサモン・サーヴァントをし平民を召喚した時のように目の前の男に問うがその返答は実に意外だったッ! 「ブフゥ~~…私はあなたの杖の精です…ブフ~~~」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」 そう叫び一目散に逃げる!自分の杖の正体がこんなのだったのだから半泣き、いやもうマジ泣きだ。 「ブふぅ~逃げないで、逃げないでっていうか引かないで。ブフ~~~ 今日は私…ブフゥ~~~爆発を起こしてもめげずに頑張るあなたを応援しにまいりました。ブフゥゥゥ~~」 さすがに応援という言葉にルイズも立ち止まる。 「さぁこの精霊様に何でも言ってみさないブフゥゥ~~っとね」 「そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?」 さっきまで思いっきりドン引きし逃げようとしていたのに現金なものだが、当の精霊様の返事は 「もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~」 クラッカーを食べながらそう即答した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 もうさっきよりもマジ泣きしながら逃げ回る。顔から色んな汁とか出しながら。 「ま、待ちなさいルイズ!…ブフゥ~今の無し、ノーカン!ノーカン!ブフゥゥゥ」 焦りつつも自分の指ごとクラッカーを食べる精霊様がマジ泣きして逃げるルイズが思わず足を止める言葉を吐き出す。 「ルイズ…ブフゥ~~よくお聞き。寝ている場合じゃあないのよ。ブフーーー 今、君たちにディ・モールトデンジャーが迫っているのだよ。ブふーー」 「……え?……ディ・モールトって何ですか?」 「ブフゥ~~…『非常に』ってこと」 「………デンジャーって?」 「『危険』なこと。ブフ~~~」 「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」 「寝ながら何喚いてんだ…ウルセーから起きろ」 目を開けると悪夢の元凶がそこに居た。 覗き込むようにして起こされたため思わず顔が赤くなる。 「……あんたが原因よ」 「そいつは悪かったな」 もちろん、クラッカーの歯クソほどにも悪いと思ってはいないのだが。 「…ってなんであんたがここにいるのよ?」 ドアには鍵が掛かっており鍵を持っているワルド以外入ってこれないはずだ。 「人がベランダで月見ながら酒飲んでるとこにアホみてーな叫びがしたから来てみればっつーわけだ」 よく見れば窓が開いている。つまりそこから入ったという事だ。 「不法侵入じゃない…ワルドに見つかったらどうするのよ!?」 「使い魔扱いしといて今更でもねーだろうが」 「…実際、使い魔なんだから仕方ないじゃない」 それに返事せずに部屋から見える普段とは違う一つになった月を見る。 「大きさは違うが…一つだけだとイタリアで見るヤツとあまり変わんねーもんだな」 もっともその心中は(ギアッチョがこれ見てりゃあ間違いなく『引力を無視してんじゃあねぇ!コケにしやがってッ!ボケがッ!』とブチキレてるだろうな)であるが ルイズの方はそれを別に受け取っていた。 「…イタリアって所に帰りたいと思ってるの?」 「…戻る手段がありゃあな。あっちではオレの残りの仲間が命を賭けて戦っている オレが生きてるのに戻らないってわけにもいかねーからな。だが、今のとこ戻る手段が無い以上オレの任務はオメーの護衛だ」 「……悪かったわよ」 「何がだ?」 「…わたしが『ゼロ』のせいで、そんな大事な事してる時にこっちに呼び出しちゃって」 一瞬訪れる気まずい沈黙。だがそれを打ち破ったのはプロシュートだ。 「言ったろーがよォーーーオメーに召喚されてなけりゃあオレも死んでたってな それにだ。オメーはまず『自信を持て』…『自信』を持っていいんだぜ!オメーの爆発をよォーー」 「…それって褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ?」 「あの爆発をマトモに食らえば人一人軽く消し飛ばせるからな」 「ok貶してるって事ね?ちょっとそこに座りなさい。ご主人様を貶すって事は躾が必要なようだから」 どこからともなく鞭を取り出すが依然としてプロシュートは冷静だ。 「今のでキレるってギアッチョかオメーは、一体何歳だよ」 「16だけどそれが何か関係あるのかしら?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音とドス黒いオーラを噴出させているルイズだがプロシュートは別の事で飲みかけのワインを思いっきり咽ていた 「ガハッ!ガッ!ゴフッ!……マジかよ?精々12~14ぐれーだと思ってたが」 ボスの娘―トリッシュ(プロシュート達は名前を知らないが)ですら15である。あのルイズをそれより年下と思っているのは当然だッ! 「な、なななななんですってェーーーーーッ!そ、そそそそう言うあんたは何歳なのよォーーーーーッ!!」 「…22だ」 そう聞いて今度はルイズがぶっ飛ぶ番だった。 「OH MY GOD!28ぐらいだと思ってたのに人の事言えないじゃない!」 プロシュートの爆弾発現に思わずさっきまでの怒りがどこかに消し飛んだ。 「ウルセーな…そういやあのワルドってのはどうなんだ?」 「ワルドは…確か26のはずよ」 「お前……あの髭よりオレを上と思ってたってのはどういう事だよクソッ」 思わずギアッチョの口癖がうつったが気にしない。 「確か婚約者とか言ってたな」 「昔、わたしとワルドの父が交わしたのよ。確かに憧れてたけど十年前別れて以来会ってなかったから正直どうしていいのか分からない…」 (6と16って地球じゃあ犯罪だぜ?おい) さすがにこれは文化と価値観の違いなので口には出さないが若干引いている。 「……ワルドから結婚を申し込まれたんだけどどうしたらいいと思う?」 「…憧れてたんならすりゃあいいじゃあねーか。まぁオレに聞かねーと結論が出ねーようじゃあ止めといた方がいいな」 「自分でもよく分からないのよ…ずっと憧れてたのに…何かか心に引っかかる…」 「オレが言えるこたぁテメーで選んだ選択を後悔するような生半可な『覚悟』はすんなって事だ」 「…その覚悟っていうのがよく分からないから聞いてるんじゃない」 「言葉じゃなく心で理解するもんだから説明できるもんじゃあねぇ」 それを最後に言葉が途切れるがその沈黙も長くは続かない。 「チッ…!ナイフを土くれに変えたっていうから予想はしてたがな」 プロシュートの視線の先には月を遮るようにして巨大な物体がそこに存在していた。 月明かりをバックに写るは巨大な人型。さらによく見ればそれが岩で構成されている事が分かる。 そしてその巨大な質量の上に鎮座している長い髪の人物は―― 「オメーか『フーケ』。どうやって脱獄したか知らねーが…今回はババァになるだけじゃあ済まねーぜ?」 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「心配するな、すぐに忘れるからよ。…ただしお前が『老化して』オレをだ」 「お、お礼をしにきてあげたのに、あ、あああいかわらずおっかないわね……」 その言葉に手を掴まれ己の体が急激に朽ち果てていくような感覚を思い出したのかフーケが怯む。 「白仮面とマントの男ってのがそいつか…随分と手の込んだ真似をしてくれるな」 フーケの横にその男が立っているが何も言わない。いや言わないが身振りで『やれ』と言っているようだった。 「それじゃあ、わたしからのお礼を受け取って頂戴!」 「土産なら必要ねぇッ!」 その言葉と同時にゴーレムの拳でベランダが粉砕されるがそれよりも早くプロシュートがルイズの腕を掴み部屋を離脱していく。 だが階段を降り一階に向かうがそこも戦場と化していた。 ワルド達が下で飲んでいたのだがそこに傭兵の一部隊に襲われたのだ。 ワルド、タバサ、キュルケが応戦しているが数があまりにも違いすぎ手に負えないでいる。 床と一体化している机の脚をヘシ折りそれを盾にしているが 傭兵たちは手練でメイジとの戦い方を心得ているらしく、緒戦の応酬で魔法の射程を見極め、その射程外から矢を射かけてくる。 傭兵側が暗闇を背にしているというのも不利な点だった。 「これじゃあジリ貧ね…!」 魔法を唱えようにも少しでも姿を見せればそこに矢が射掛けられる このまま行けば間違いなく精神力が途切れたところに突入され突撃されるのは自明の理だ。 「この前吐かせた連中もこいつらの仲間ってわけか」 そこに二階からプロシュートとルイズが降りてくる。身を隠そうともしないプロシュートに矢が飛んでくるが全てその手前で止まっている。 グレイトフル・デッドでガートしているのだ。そしてそのまま机の影に滑り込む。 「この様子だとラ・ロシェール中の傭兵が集結してるみたいだね」 入り口の先にはフーケのゴーレムの足も見え下手すればこのまま建物ごと潰される恐れがあり、それがプロシュートとタバサを除いて焦らせていた。 「いいか諸君。このような任務では、半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 タバサが本を閉じ自分とキュルケを杖で指し「囮」と呟く そしてプロシュート、ルイズ、ワルドを指し「桟橋へ」と呟いた。 それに応えるかのようにしてワルドが裏口にまわるように促すが、プロシュートは動こうとはせず口を開いた。 「囮ってのは悪くねーが人選ミスだ。タバサとキュルケだけで支えきれるもんでもねぇ。…だがオレとタバサが居りゃあ5分でカタが付く」 「言ってくれるな…だが、君がそれでいいというのなら任せよう。裏口に回るぞ」 ルイズはあの時以来のアレを使うつもりだと思っていたが、そこにプロシュートが自分のために囮を買って出たという吊橋効果もいいとこな思考でキュルケが口を挟む。 「ダーリン…あたしのために…無事会えたらキスしてあげるから死なないでね」 「オメーのためでもねーし、その呼び方は止めろ」 三人が姿勢を低くし移動する。当然矢が飛んでくるがそれはタバサが風を使い防いでいた。 「どうして貴方が囮に?」 「確か二つ名が『雪風』だったな。氷を作れる事と、何より口が硬そうってのがある 対応策を知ってるヤツは少なければ少ないほど良いし合流するのに竜が使えるからな…」 「氷?」 「老化を抑える」 それだけ言い放ち広域老化を仕掛けようとするがそれをタバサに止められた 「あそこにも人がいる」 そう言って杖で指した方向には貴族とここの主人がカウンターの下で震えていた。主人に至っては腕に矢を食らっている。 氷が作られるのを確認すると無言で貴族の客と主人に氷を投げつけ、1~2発頭に当たったのか貴族が文句を言おうとするが 「死にたくなけりゃあ黙って持ってろ」 その、スゴ味の効いた声に全員が押し黙る。 そしてタバサが自分の氷を作ったのを確認すると己の分身の名を宣言するかのように叫んだ。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 突入を仕掛けようとしていた傭兵達の動きが急激に鈍くなる。 クソ重い鎧を着込みこちらに矢を射掛けているのだ。当然――フルスピードでカッ飛ばした車のように『温まって』いる 「頭痛がする…吐き気もだ…この俺が気分が悪いだと…?疲労感で…立つことができないだと……!?」 それに呼応するかのように次々と自らの鎧の自重に耐え切れず崩れ落ちる傭兵達。 それを巨大ゴーレムの上で見ていたフーケだが正直気が気ではない。 「傭兵達が倒れていくって事はあの使い魔が残ったって事ね… それにしても、あんな魔法反則じゃあない…無駄に範囲が広いし射程に入ったら即あんな風になるわね…」 「分散させる事ができれば問題無い」 「あんたはそうでも、わたしはそうはいかないさね…あいつに掴まれた時の事は今でも夢で見るんだから…」 「……よし、俺はあいつを相手にする」 「…わ、わたしはどうすんのよ」 フーケが眼下の惨状に恐怖しつつ引きつりながら男に問う 「好きにしろ。逃げようとも前の勝手だ。合流は礼の酒場で」 男がゴーレムから飛び降りると倒れている傭兵を避けるかのようにして宿屋に入っていく。 「何考えてんだか…勝手な男だよ」 そう苦々しげに呟くフーケだが攻撃を仕掛けるか逃げるかまだ迷っているようだった。 だが、さすがに傭兵達の悲鳴が地の底から聞こえるようね呻き声に変わった時決断は決まった。 「………逃げるんだよォーーーーーッ!スモーーーーキィーーーーーーーッ!」 ゴーレムをジョセフ・ジョースターのように走らせその場を離脱した。 「…片付いたようだな」 酒場の中はスデに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 なにせ鎧姿の傭兵達が全て倒れ伏せ呻き声をあげている。 大半は生きているようだが体が温まっているのだ。寿命が尽きるのは目前だった。 だがそこに一人、仮面の男が乱入してきた。 (新手か…!?…老化してねーようだが氷でも持ったか?) 広域老化で老化してないのなら直しかない。即座にそう判断し接近戦を仕掛けるべくデルフリンガーを抜き距離を詰める。 「やっと…俺の時代が…長かった…冬が…」 白仮面の男が黒塗りの杖を握ろうとする。剣を振ったのでは間に合わない。そう判断し突進しつつ蹴りをブチ込み酒場の外に吹っ飛ばした。 「チッ…!さすがに杖は離さねーか」 吹っ飛ばされながらも杖はしっかり握っておりプロシュートに向き直り杖を構えている。 「兄貴ィ!魔法が来る!」 白仮面が呪文を唱えているがデルフリンガーに言われるまでもなく男との距離を詰めようと駆け出している。 右手に持ったデルフリンガーで斬りかかる。甲高い音が鳴り響き白仮面が杖でこれを止めている。 だがこれは陽動だ。人間見えているものに注意がいけばそれ以外の場所が疎かになる。 「…掴んだッ!」 プロシュートの左手が男の腕をガッシリと掴んでいる。直触りを仕掛けようとしているのだ。 手加減の必要など微塵も無い。スタンドパワー全開の直触り。白仮面の男は確実にミイラになるはずだった――― 「…何の真似だ?」 だが白仮面の男は老化した気配など微塵も見せずにそう答える。さすがのプロシュートもこれには動揺したッ! 「バカなッ!直触りを受けて『老化しない』だとッ!?」 「兄貴ィ!ヤベーぜッ!そいつから離れて構えてくれッ!」 だが、遅かった。離れた瞬間、白仮面の男周辺の空気が冷え空気が弾け閃光がプロシュートの体を貫いた。 「~~~っがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「兄貴ィィィィィィィイイイ!『ライトニング・クラウド』かよぉ!」 一瞬意識が飛びそうになるがそうなれば傭兵達の老化が解除される。それだけは避けようとし意識をギリギリのところで意地するが正直ヤバイ。 「たまげたな…今のを受けてまだ生きているか」 (左腕の感覚がねーな…おまけに直を受けて老化しないだと?話てるって事はゴーレムの類じゃあねーしどういうこった!?) 生物である以上グレイトフル・デッドの老化からは逃げられないはずだ。ましてこの男は魔法まで使っている。 いかに体を氷で冷やしていようとも直触りを受ければ確実に老化するはずなのだが、こいつは老化してない。それが珍しくプロシュートを焦らせていた。 白仮面の男が第二撃を仕掛けようと呪文を唱えようとする。だがそこに上空から風の塊が白仮面の男を襲い吹き飛ばした。 「早く乗って!」 タバサがシルフィードの上から『エア・ハンマー』を唱え白仮面の男を吹き飛ばしたのだ。 一瞬白仮面の男を見据えるが、すぐに考え直す。 (どういうわけか知らねーが直が効かない以上老化は役に立たない…か。腕もヤバイし時間稼ぎは達したな) そう判断しシルフィードに飛び乗る 「直が効かない理由は分からねーが…この借りは兆倍にして返すぞッ!」 その言葉と同時にシルフィードが上空に飛び立ったが事実上の敗北と言ってもよかった。 プロシュート兄貴 ― 左腕―第三度の火傷 スーツ損傷率17% ←To be continued 戻る< 目次 続く